新規授業企画書・マイナー領域

 

科目名「太平洋戦争史」

氏名:_________________

 

 

 

□主題と目標

 

太平洋戦争が日本の敗北で集結してから、既に半世紀以上が経過した。かつての敗戦国であった日本は、戦後の荒廃から立ち直り、新たな発展を経て、現在の繁栄を築いてきた。

しかし、戦後といわれる時代の中で、太平洋戦争の歴史、またその敗北を教訓として取り入れるという行為が行われてこなかった経緯がある。これは、太平洋戦争後の世相や、戦争に従軍した人々が数多く存命し、歴史に対して正しく評価を行える環境になかったという要因がある。

現在我々は戦後50年以上を経て、ようやく戦争を歴史として学び、そこから知識と反省、教訓を得られる環境を得たと言ってよい。

本講義では、太平洋戦争の開戦までの経緯、太平洋戦争の戦史、また戦後の日本の再生、という歴史の課程の中から、我々現代にいきる人間にとって知るべき歴史を学び、歴史を正しく評価して、そこからくみ取られる重要な教訓を得ることを目的とする。

 

 

 

 

□本講義の狙い

 

太平洋戦争終結後50年あまりが経過し、時代も昭和から平成へと大きく転換した。この中で、かつて埋もれていた太平洋戦争やその後の日本にとって重要な資料が公開されはじめている傍ら、我々日本人のなかから、太平洋戦争の記憶が薄れつつある。

我々日本人は、戦争後の50有余年の間、戦争を忌まわしき体験として、故意に触れることを避けてきたという事実がある。その結果として、太平洋戦争という歴史が持っている、我々現代人に対する重要な知識と教訓も、また放棄されつつある。

本講義では、太平洋戦争とそれに関わる日本の歴史を紐解き、日本人にとっての太平洋戦争が何であったのかを考察する傍ら、歴史としての太平洋戦争が持つ我々への教訓を掘り起こすことを目的とする。

広義の戦争は、戦闘行為のみを指すだけでなく、その周辺の政治的、経済的な事象も含まれる。本広義ではこれらを統合的に検証し、太平洋戦争の実像とそこに埋もれた我々へのメッセージを汲み取ることを目的とする。

 

□講義の体系と構成

 

本講義は、初回・最終回の講義、及び3部構成のその他の回の講義で行われる。

初回は、太平洋戦争についての簡単なアンケートを行い、我々現代人の中で、太平洋戦争がどのような捉え方をしているのかについて明らかにする。

第1部は、太平洋戦争が開始されるまでの経緯に焦点をあて、昭和以前の日本の歩みと、開戦前夜の日本と諸外国との関係、そして日米開戦に至る経緯を見てゆく。こうした中で、日本と諸外国が太平洋戦争へと向かっていった原因を明らかにし、なぜ戦争を止めることができなかったのか、について考察する。

これを、第2回から第5回までの授業で行う。

第2部は、太平洋戦争の戦史に焦点をあて、日本と連合国の間で、どのような戦争運営が行われていったかについて見てゆく。戦史は、戦術の範疇に入る局所戦闘から、戦略の範疇に入る戦闘行動、また戦争運営機関としての国家形態、経済形態に及ぶ。これらの歴史の中から、局所的な勝敗の原因、また大局的な勝敗の原因を明らかにし、戦争運営という行動から我々が得られる教訓を抽出する。これを、第5回から第11回までの授業で行う。

第3部は、太平洋戦争後の日本国家の運営に焦点をあて、米軍の占領統治や日本軍の遺産が、その後の日本の繁栄にどのようにつながっていったのかを明らかにする。この中で、繁栄への道付けがどのように行われ、どの点で成功しどの点で失敗したのかについて考察する。これを、第12回から第14回までの授業で行う。

最終回では、本講義のまとめとして、太平洋戦争史から得られた知識と教訓について考察し、これを我々が将来に生かしてゆく方法について論議する。

 

□前提

 

本講義を受講するに当たっては、中学校終了程度の日本史の知識を持っていることが望ましい。

 

□評価

 

各部につき1回のレポートを課す。このレポートは、必ずしも各部の最終回に出題されるとは限らない。また、最終講義の後に、最終レポートを課す。

成績については、各レポート20点、最終レポート40点の計100点で、総合的な評価を行う。


□講義計画

 

第1回:現代人と太平洋戦争――はじめに

 

目標

・本講義の目的と意義について解説し、我々現代人が太平洋戦争についてどういった認識を持っているのかを明らかにする。

 

概要

・授業開始時に、本講義の概要と進め方について説明する。次に、受講者に対して、太平洋戦争に対して持っているイメージ、また太平洋戦争について持っている知識を問う簡単にアンケートを行う。このアンケートを元に、我々現代人が太平洋戦争についてどういった知識とイメージを持っているかについて論議する。

 

第2回:明治・大正――戦争国家日本

 

目標

・昭和時代に至る日本の歴史、特に日清戦争・日露戦争とこれに伴う日本の政治形態と為政について理解を深める。

 

概要

・近代日本が対内的、対外的に発展する上で不可避であった日清戦争、日露戦争についての歴史を概観し、この2つの戦争が近代日本に与えた意味について考察する。特に、日本が常時戦争を行うことによって発展を続けてきたという歴史を明らかにする。明治から昭和に至るまでの日本の政治・為政の思想の変遷について解説し、太平洋戦争へと至る昭和初期の日本の政治・思想的な環境について理解を深める。

 

第3回:満州国と日中戦争――大陸進出の錯誤

 

目標

・太平洋戦争開始の下地となった日本の中国大陸への進出について理解する。

 

概要

・日本が中国大陸への進出を企図した満州国、また日中戦争について解説し、日本が植民地経営に失敗した原因、また中国大陸の人々と和合し得なかった理由を考察する。日本が中国大陸に対して行った軍事的、政治的な行動、謀略などについて理解し、また欧米列強諸国と対立を深めていった原因についても考察する。これらの事柄から、日本のとった行動の錯誤を明らかにする。

 

 

第4回・日独伊三国同盟――外交・人事の錯誤

 

目標

・日独伊三国軍事同盟締結への経緯を概観し、同盟締結に関わる日本の外交上の錯誤について明らかにする

 

概要

・第二次世界大戦開戦への経緯と、枢軸国(日本・ドイツ・イタリア)の外交関係、また連合国との外交関係の変遷を明らかにし、日本が日独伊三国軍事同盟を締結するに至った経緯を見る。また、軍事同盟が日本に与えた利益と打撃について考察し、日本が軍事同盟を締結するに至った外交上の錯誤、また政府軍部の人事上の錯誤について考察する。

 

第5回・日米交渉から開戦へ――情報の重み

 

目標

・太平洋戦争開戦前夜に行われた日米二国間の交渉の経緯を紐解き、日本政府・軍部の錯誤を明らかにする。

 

概要

・太平洋戦争開戦前夜に行われた日米交渉について、その開始から決裂までを順を追って見てゆく。この課程で、日米交渉の推移を、日米の情報に対する意識の違いに注目して理解する。全体を通して、日米の情報に対する認識を比較し分析する。また、日米交渉が、その後の実際の戦争行為に与えた影響について考察し、日米の戦争準備の課程と錯誤について、戦略的見地から考察する。

 

第6回・真珠湾攻撃――思想の転換・その反映

 

目標

・開戦直後に発生した、日本軍の真珠湾攻撃に焦点をあて、既存の思想を転換と、それを反映することの困難さについて、日米両サイドから考察する。

 

概要

・当時の戦術に衝撃的な思想の転換をもたらした、日本軍の真珠湾攻撃について、その思想の誕生から実施までの課程について解説する。この中で、既存の枠組みを転換する困難さと、それを行うための人事・組織について考える。また、転換された思想を、継続して反映してゆくことの困難さを、日米両サイドのその後の戦術の変遷を通して考察する。

 

第7回・ミッドウェー海戦――実行者の意識

 

目標

・太平洋戦争の分水嶺となった、ミッドウェー海戦に焦点をあて、実行者の意識が結果に与える影響について考察する。

 

概要

・日本軍の圧倒的な敗北に終わったミッドウェー海戦について、これを実行者の意識に焦点を当てて考察してゆく。ミッドウェー海戦へ至る日米双方の動機、これまでの戦争の推移、実際の戦闘の経緯を通して、司令官、指揮官、兵員のそれぞれの戦闘に対する意識について日米両サイドから考察し、これが勝敗に与えた影響について考えてゆく。これらを通して、実行者の意識が対局に与える影響について考察する。

 

第8回・ガダルカナル争奪戦――戦略と戦術

 

目標

・日米が大消耗戦を繰り広げた、ガダルカナル争奪戦に焦点をあて、戦略の捉え方、戦術の捉え方を、日米両サイドから考察する。

 

概要

・太平洋戦争前半の激戦であったガダルカナル争奪戦の経緯をたどりながら、戦術が戦略に与える影響、また戦略が戦術に与える影響について考察する。特に、戦略的見地から捉えた戦術の把握と、戦術が戦略に与える影響の大きさを理解する。この戦闘行動が日米両国に与えた影響について考え、大局的見地、局所的見地がどういったものかについて論議する。

 

第9回・新しい兵器――領域横断的な戦争運営

 

目標

・太平洋戦争後半に登場する新兵器を取り上げ、異なる分野にまたがった物事の運営について考察する

 

概要

・マリアナ沖海戦を例に取り上げ、太平洋戦争で登場した新兵器、VT信管に焦点を当てて解説する。総力戦としての近代戦のあり方について解説し、戦闘行動に直接関わりない分野が戦闘に与えた影響の大きさについて考察する。これを複数の分野、一見関連がないように見える分野を、1つの目的のためにどうやって統合し、利用していくかの実例として捉え、米側の新兵器開発の手法、日本側の新兵器開発の手法を比較し、領域横断的な運営の重要さについて考察する。

 

 

第10回・戦争経済――非戦闘分野での戦争

 

目標

・日本の戦時経済の経営に焦点を当て、目的行動の支援手法の確立について論議する。

 

概要

・戦争状態を維持していくために必要な戦時経済の運営について、日本側の戦時経済運営を例に挙げ、その失敗について解説する。資源確保、兵器製造、非戦闘物資の製造、海運・物流などを焦点に、日本国内経済の変遷、また占領地経済の変遷を追う。これを通して、行動の目的と、それを支援するシステムの構築方法、運営方法について考察する。

 

第11回・原子爆弾と終戦の詔勅――破局と収拾

 

目標

・日本軍の軍事的敗北と、日本の敗北の受け入れの経過について理解し、破局とその収拾方法について考察する。

 

概要

・日本の軍事的な敗北への過程として、レイテ沖海戦、沖縄戦の経緯を解説する。また、日本が敗北を事実として受け入れるまでの経緯として、ポツダム宣言と発表と原子爆弾の投下、ポツダム宣言を受け入れるまでの日本政府の同行と終戦の詔勅の発布の経緯について解説する。これらを通して、物事の最終局面、とくに破局を迎えた場合では事態収拾の方法について、日本政府の例をとって考察する。

 

第12回・戦争の遺産――技術立国日本の礎

 

目標

・太平洋戦争のために開発された技術が、民間に転用されていった経緯に着目し、これが戦後日本の発展に与えた影響について考察する。

 

概要

・戦争中に日本軍が開発した有用な先端技術が、戦後の日本の工業的発展にどのように寄与していったのかについて解説する。特に、航空機技術、船舶建造技術、工学技術に注目し、これが民間にどのように転用されていったのかを見る。これによって、軍事技術を平和利用するための手法と問題点を明らかにし、現代にこれを適用する方法を考察する。

 

第13回・国家の再生――戦後日本政治の錯誤

 

目標

・米軍の占領統治下で、日本の政治がどのように運営されていたのか、またどのように発展していくよう方向付けられたのかを理解し、その錯誤について考察する。

 

概要

・米軍統治下において、新憲法の制定と、日本国の政体の変革、政治の運営について概観する。この中で、その後の日本発展に米国の意志がどのように反映されていったのか、その中で日本の政治を運営する為政者がどのような役割を果たし、国民にどのような政治意識を植え付けていったのかについて考察する。また、終戦直後の日本の政治が、現在の政治の欠点・弱点に与えた影響について論議する。

 

第14回・歴史の反動――太平洋戦争の忌避

 

目標

・戦後日本の中で、正しく太平洋戦争が直視されてこなかった事実を理解し、歴史を封印してしまった錯誤について考察する。

 

概要

・戦後日本の社会の中で、太平洋戦争がなぜ直視されることがなかったのか、また直視することを忌避されてきたのかについて、受講者と共に論議する。また、太平洋戦争という歴史の事実を忌避してきたことが戦後日本の歴史に与えた影響についても、考察し論議する。

 

第15回・現代人にとっての太平洋戦争――おわりに

 

目標

・これまで講義してきた内容について総括し、我々現代人は太平洋戦争をどのように捉えるべきか、また太平洋戦争からなにを学び、将来に活かしてゆくべきかについて考察する。

 

概要

・これまでの講義の中で、現代人が歴史として認識すべき太平洋戦争について考察してきた事柄を総括する。また一連の講義のなかで考察し、論議してきた内容から、我々現代人が太平洋戦争をどう捉えてゆくべきか、またこれを将来にどう伝え、活かしてゆくべきかを、受講者と共に論議する。