新規授業企画書・メイジャー領域
科目名「衛星インターネット概論」
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□主題と目標
現在、世界的な規模でインターネットが普及している。特に欧米、日本では、インターネットは生活に必要不可欠な情報インフラストラクチャとして認知されはじめ、インターネットを用いた様々なサービスやビジネスが現実化してきている。
しかし、東南アジアなどの発展途上地域では、まだインターネットは十分には普及していない。使用者へのハードウェアや回線の整備が遅れていることも勿論であるが、発展途上の地域では、国外への接続性を持つためのコストが、インターネット普及の大きな障壁となっている。
こうしたインターネットが未発達の地域に対して、容易に対外接続を提供する手段として、衛星回線を用いたものが注目されている。だが、衛星回線は従来のインターネットの中心であった地上回線と異なり、様々に利点・欠点を持っている。このため、従来のインターネットの通信技術では、衛星回線を有効に使用することができない。
本講義では、衛星回線の特徴について解説し、インターネット上の通信路として衛星回線を使用する技術を学ぶ。また、日本と東南アジア地域を衛星回線で接続する実例を挙げ、衛星回線を用いたインターネットについて考察する。
□本講義の狙い
インターネットは、人類が初めて手に入れた、全世界的な、隔たりのない、自由な情報インフラストラクチャである。インターネットは、徐々に、生活になくてはならないものとして社会に受け入れられつつある。
しかし、インターネットはコンピュータ技術を基盤としているため、従来は欧米、日本を中心とした先進諸国だけで発展してきた。これに対して、多くの人口を抱える中国、インドなどのアジア地域諸国から、インターネットの普及と発展に対しての要求が著しく高まっている。
こうした各国では、経済的な問題などから、高価な光ファイバーなどの回線を敷設することができない。この問題を解決するのが、衛星回線である。
本講義では、経済的、あるいは地理的に従来の地上回線の回線敷設が困難な地域に対して有効な技術である衛星回線を用いたインターネットについて理解を深める。衛星回線の技術的な長所、短所をつかみ、また電波を用いるにあたっての基本的な技術知識、法律知識についても学ぶ。
これらによって、従来なかった衛星回線を用いてのインターネットの発展について、考察してゆく。
□講義の体系と構成
本講義は、初回・最終回の講義、及び3部構成のその他の回の講義で行われる。
初回は、衛星インターネットについての概略を講義する。衛星インターネットが注目を集める理由について、まず受講者と共に考察してみる。
第1部は、インターネットの基礎的な技術知識について解説する。これによって、現在のインターネットがどのような技術的な基盤の上に成立しているかを明らかにし、インターネットという情報インフラストラクチャの可能性と限界について考察する。これを、第2回から第5回までの授業で行う。
第2部は、衛星回線の基礎知識について解説する。衛星回線の持つ長所、短所を理解し、衛星回線を用いた通信の有効性を理解する。また、日本に於いて衛星回線を使用するための知識として、電波法についての解説を行う。これを、第6回から第10回までの授業で行う。
第3部は、衛星インターネットを使用したバックボーンの実例を挙げながら、衛星回線とインターネットの有効性を考える。この事例から、衛星回線を用いてインターネットを整備することの意義について考察する。これを、第11回から第14回までの授業で行う。
最終回では、本講義のまとめとして、衛星インターネットの将来像について、受講者と共に考察する。
□前提
本講義を受講するに当たっての前提知識は、特に必要としない。
□評価
各部につき1回のレポートを課す。このレポートは、必ずしも各部の最終回に出題されるとは限らない。また、最終講義の後に、最終レポートを課す。
成績については、各レポート20点、最終レポート40点の計100点で、総合的な評価を行う。
□講義計画
第1回:衛星インターネットとは?
目標
・本講義の目的と意義について解説し、衛星インターネットの有効性について理解する。
概要
・本講義の構成と進め方について説明する。次に、衛星インターネットが注目されている現状を理解するために、衛星回線を用いたインターネット構築の事例を2つ紹介する。日本・米国に於けるコンシューマー向け衛星インターネットであるSkyPerfecPCサービスと、Asian Internet Interconnection Initiatives について解説し、現在の衛星インターネットが持つ利点、欠点を理解する。
第2回:インターネット基礎技術・インターネットの歴史
目標
・現在のインターネットの成立過程を解説し、インターネットが目的とする情報インフラストラクチャについて理解する。
概要
・インターネットの誕生から、現在まで発展してきた経緯を概観する。これによって、インターネットの目的、歴史的な発展の道筋を学び、インターネットが持っている本質的な思想について理解を深める。米国に於けるインターネットの発祥と発展、また日本におけるインターネットの発展について講義する。
第3回:インターネット基礎技術・インターネットプロトコル
目標
・現在のインターネットを構築している技術の基礎を学び、インターネットがどのように従来の通信技術と異なった特徴を持つのかを理解する。
概要
・インターネットで用いられている通信技術について理解する。特に、最前努力型配送、階層型通信モデル、階層型プロトコルモデル、名前空間、といった、インターネットの基礎的な原理を解説する。また、これらの技術的な基礎が、現在のインターネット上の様々なアプリケーションにどのように関わっているのかを理解する。
第4回・インターネット基礎技術・IPv4とIPv6
目標
・現在まで使用されてきたインターネットプロトコルである IPv4 と、次世代のインターネットプロトコルであるIPv6 について理解し、現在のインターネットの限界と将来のインターネットの可能性について理解する。
概要
・現在インターネットで使用されているIPv4 の限界について解説する。インターネット利用者人口の増加によって招くインターネットの限界について理解する。また、近い将来に導入される次世代インターネットプロトコルであるIPv6について解説し、今後のインターネットの発展の可能性について論議する。
第5回・インターネット基礎技術・マルチキャスト通信技術
目標
・衛星回線と親和性の高い、マルチキャスト通信技術について知識を深め、マルチキャスト通信の有効性と問題点について理解する。
概要
・多数の利用者に同時に同一のデータを配布する時に有効な通信技術として、マルチキャスト通信を取り上げ、解説する。インターネットが一般に浸透した際のマルチキャスト通信の重要性について理解し、現在のインターネット上でマルチキャスト通信技術を用いる際の問題点について解説する。マルチキャスト通信技術が衛星回線と親和性の高いことを解説し、第2部で取り上げる衛星回線の特徴についての導入を行う。
第6回・衛星回線の基礎知識・電波を用いた通信とは?
目標
・電波を用いた通信について知識を深めし、特に衛星通信を行う電波通信の特徴について理解する。
概要
・電波を用いた通信の基礎について解説する。電波通信の特質、利点と欠点について解説し、衛星通信の種類について学ぶ。また、本講義で対象とする静止軌道上の通信衛星を用いた通信での特徴(周波数による電波の特徴や機材の特徴など)を解説する。
第7回・衛星回線の基礎知識・衛星を用いた通信
目標
・衛星回線を用いた通信の特徴を理解する。従来の地上回線と衛星回線の通信との違いを把握する。
概要
・衛星通信の持つ特質について解説する。衛星回線の持つ利点である広域同報性、地理不偏性、無線設備設置の期間、費用的側面などについて理解する。また、衛星回線の持つ欠点である、通信の遅延、電波資源の有限性などについても理解を深め、これらによって衛星回線の特質を会得する。
第8回・衛星回線の基礎知識・電波法について
目標
・電波を用いた通信に際して必要な電波法について、衛星回線に関わる部分の概要を理解する。
概要
・電波を取り扱う際には、電波法を遵守する必要がある。この回では、日本の場合を取り上げ、日本国の定める電波法について概観する。電波資源の有限性と、その有効活用を行うために定められた電波法およびその関係法令の思想について理解する。次に、電波法のうち、衛星回線に関わる部分だけを抜粋し、これを解説する。
第9回・衛星回線の基礎知識・衛星回線運用の実際
目標
・実際に運用されている衛星回線を挙げ、衛星回線を運用していくことについての理解を深める。
概要
・実際に衛星回線を運用しているネットワーク、無線局をビデオによって紹介する。また希望者には、実際に衛星回線のネットワーク・オペレーション・センターを見学する機会を提供する。衛星回線が実際のインターネット上の通信路として使用されている現状を知り、衛星インターネットへの興味を深め、また第3部で取り上げる衛星インターネットの実例への導入とする。
第10回・衛星インターネットの有効性・災害時の衛星回線運用
目標
・衛星回線の敷設の即時性について、災害訓練時の実例を挙げながら、理解を深める。
概要
・災害時の地上回線の脆弱性について解説し、緊急時に衛星回線を用いてネットワークを敷設することの有効性を説明する。阪神淡路大震災や台湾大地震で、災害によってインターネットが使用不可能になった場合の影響について考察し、IAA( I Am Alive)プロジェクトの例を紹介しながら、災害時や緊急時に衛星回線によるネットワーク敷設が重要な役割を果たしていることについて解説する。衛星回線の可搬局設備に実際に触れて、衛星回線の耐災害性について理解を深める。
第11回・衛星インターネットの有効性・デジタル衛星放送を用いたインターネット
目標
・コンシューマー向け衛星インターネットの実例に触れ、多数の利用者への衛星インターネットについて考察する。
概要
・現在サービスが開始されている、デジタル衛星放送を用いた衛星インターネットについて解説する。現在提供されているサービスを紹介し、実際の機材に触れ、コンシューマー向け衛星インターネットの問題点と可能性について考察する。また、デジタル衛星放送を用いたインターネットを有効に利用するための技術について解説する。
第12回・衛星インターネットの有効性・AIII(Asian Internet Interconnection Initiatives)概観
目標
・衛星回線を国際バックボーンとして用いる実例について理解し、国際間ネットワークについて考える。
概要
・東南アジア各国と日本とが共同で行っているAIII(Asian Internet Interconnection Initiatives)プロジェクトについて概観する。AIIIプロジェクト開始と発展の経緯、現在のAIIIプロジェクトの現状について解説する。また、AIIIプロジェクトにおいて日本が果たしている役割、SFCが果たしている役割について解説し、日本を中心とした衛星インターネットについて理解を深める。
第13回・衛星インターネットの有効性・AIII(Asian Internet Interconnection Initiatives)各国の状況
目標
・東南アジアに於ける国際バックボーンとして衛星回線を使用することの意義について論議する。
概要
・AIIIプロジェクトのパートナー国の中から、タイ、インドネシア、ベトナムを取り上げ、これらの国々でAIIIプロジェクトが果たしている役割について考察する。国際対外線としてのAIIIプロジェクトと、これらの国々で衛星回線を用いることの有利さについて考え、衛星回線を用いて国際パックボーンを構築する利点について理解を深める。
第14回・衛星インターネットの有効性・AIII(Asian Internet Interconnection Initiatives)将来
目標
・衛星回線を用いた国際バックボーンの将来像について論議する。
概要
・AIIプロジェクトで実現した衛星国際バックボーンが、日米や米欧をつなぐ従来の国際バックボーンとどう異なるのかについて考察する。その上で、衛星回線を用いた国際バックボーンの利点を明らかにし、AIIIプロジェクトの将来像と、衛星回線を用いた国際バックボーンという国際間ネットワークの形態の可能性について考察する。
第15回・衛星インターネットの将来
目標
・衛星回線を用いたインターネット、また宇宙通信まで視野に含めたインターネットの将来について考察する。
概要
・これまで講義してきた衛星インターネットについてのまとめを行い、衛星回線を用いたインターネットが今後どのように発展していくか、またどのように発展させていくように方向付ければよいのか、について考察する。また、地球のみの衛星通信だけでなく、今後人間の活動範囲が宇宙に広がった場合のインターネットの発展について、衛星通信で得た知識、技術を元に、考察する。