インターネットを用いたイベント事業について
私は今学期、坂本龍一さんのインターネットライブを手伝うという経験を得ま した。そのときに感じた事をもとに、今後衛星を利用したインターネットにお けるこのようなイベントのあり方について考えてみました。なにぶん、インター ネットについてはまだ勉強中であり、内容は稚拙なものにならざるを得ません が、投稿させていただきます。
考察を進めていく上で、イベントとインターネットの特性についてそれぞれ述 べてみたい。 まず、イベントについての特性だが、その大きな特徴としてすぐあがるだけで も以下の事が言えるだろう。 1 ある程度の人数が集まって行うものである。 2 その人数を収容するだけの箱が必要になる。 3 そのための箱は大きすぎても小さすぎてもいけない。 4 その人数を集めるための共通した目的が必要である。 5 そのイベントの満足度は、4における目的が、 それにかかった時間的・経済的・精神的コストに対して どれだけ達成されたかにおいて決まる。 以上に挙げた点は、最も基本的なイベントにおける最低条件である。これらの いくつかにおいては、インターネットの利用法によっては問題がないかむしろ 効果をあげると思われるものがある。
たとえば、1の「ある程度の人数」という点では、ユニキャストではトラフィッ クで問題があるが衛星を使ったマルチキャストにより、世界につながるインター ネットの特性を生かした、今までとは違う規模の人数を集客できる可能性もあ る。勿論、現時点においてはインフラや利用者の数などの問題もあり、まだ現 実的ではないが、今までのインターネットの普及を見ると恐らくそんなに遅い 実現ではないだろう。次に4の「共通した目的」であるが、これはむしろ双方 向通信が可能なインターネットならば、オーディエンスの目的に沿った放送が 出来るし、またオーディエンスから帰ってくる情報により、主催者側もより細 かな演出を行ったり、マニアックな情報を伝える事も出来る。また、イベント を利用した広告もこれにより、適切な位置に適切な広告を出す事が可能であり、 安価な広告費で質の高い効果的な広告を出す事も出来るのではないかと思われ る。そこでは当然、ホームページとの連携による新しい広告形態が必要になる。 5の「コストに対する目的の達成度合い」であるが、経済的なコストにおいて は放送が中心としたイベントにおいては広告費により、通信費用を除いてはテ レビと同じく視聴者のコストは少なくすむであろう。時間的なコストも家に居 ながらにしてイベントが見れるとあらば問題無いし、その通信がストレスなく 行われるとしたら精神的コストも問題無いであろう。
しかし、ここで問題となるのは実際にはその様なコストではなく、むしろそれ とトレードオフの関係にある「利用者の目的」である。今までかなり楽観的な 視点で述べてきたが、現時点においてインターネットを利用したイベントはお 金を取るといったレベルではない。 統計を取ったわけではないので確かな事は言えないのだが、そのほとんどが商 業的視点を抜きにしたボランティア的なものであるのではないかと思われる。 イベントにおいてまず意識しなくてはならない事は先に書いた「利用者の目的 がどこにあるか」である。仮にインターネットにおいて様々なコストが軽減さ れたとしても、その目的を達成できない以上は全く意味がないといっても過言 ではない。現在のインターネット関連のイベントにおいて、最も必要なのはこ の点にあると思われる。でなければ、コストパフォーマンスの点でテレビには どうしても勝てないであろう。 先にあげた楽観的な視点の中で、あえて2・3を飛ばしたのはここに理由があ る。イベントにおけるオーディエンスの重要な目的の一つとして「臨場感を楽 しむ」といった事があると思う。テレビを代表とするマスメディアには、この ような雰囲気が出せない。なぜならば、皆を収容する「箱」がないからである。 メディアミックスの視点でインターネットを考える時、この点は非常に重要な 強みとなる。 インターネットには主催者(ないしは出演者)対オーディエンスといった枠組 みだけではなく、オーディエンス対オーディエンスといった関係が出来る。こ れらを収容する「箱」をネット内に仮想的に作ってやる事は可能であろう。し かし実際にはインターネットという枠組みは「箱」として大きすぎて臨場感を 出すには不向きであるし、現実感がない。 この点で、先の坂本龍一氏によるインターネットライブにおける某インターネッ トカフェの試みはとても面白かった。イベントの内容は、MIDIで送られてきた データをもとに遠隔操作されたピアノを聴くといったものだったのであるが、 そこでは坂本さんは居ないのにもかかわらず「このピアノを坂本龍一が弾いて いる」というだけで妙な臨場感が感じられた。このようなオーディエンス側の 感覚的な喜びは、イベントを行う上で非常に重要なものだと考える。
衛星やマルチキャストを使っても、このような「オーディエンス側の目的」を しっかりと把握しなければ、何らテレビと変わらないし、せっかくのインター ネットの特性も意味の無い物になってしまう。ここに今まで「サービスが先行 しすぎた」と批判されるインターネットの弱さがあると考える。私は主に「オー ディエンスの目的に適うインターネットサービスは何か」という視点から、ブ ロードキャスト的なイベントでも威力を発揮できる衛星を使ったインターネッ トのシステムについて研究していこうとおもう。 また、衛星を使ったマルチキャストなどにおいても0、5秒の遅延や同期生な ど様々な問題がある。今まではそれを技術的に克服する事が研究の中心であっ たが、、私は主に今までインターネットにおいて「問題」とされていたものを 「インターネットにおける特徴」と捉え直す事で、むしろそれに沿った目的を 開発しクライアント側に植え付ける事ができないか、といったアプローチから も研究してみたい。