Jun 05, 2007
脳のなかの幽霊
脳のなかの幽霊 (角川21世紀叢書)V.S. ラマチャンドラン, サンドラ ブレイクスリー, V.S. Ramachandran, Sandra Blakeslee, 山下 篤子
角川書店 (1999/08)
この本は,脳の仕組みと,人間の感覚などとの関係を調べる 神経科の事例を紹介する本だ.人間の脳は笑いを司る部分, 認識を司る部分などに分かれていて,それらの反応と,視覚からの フィードバックが合わさって感情になる,などということを, 脳の一部に損傷を負った患者の例を見ながら説明していく. 例えば,人間の顔を見て,母親の顔の造詣だと分かっても,母親を見たときの 感覚がない(その部分が損傷している)ので,「あれは母親に似た 別人だ.本物は別のところにいる」などという思い込みになるのだそうだ.
恐ろしい,面白い人間の例が沢山.読まなきゃ絶対知らないままだ, というような事例・症状が沢山でてくる.自分が好きなのをいくつか.
視覚障害の人は日常的に幻覚を見ている人が多いそうだ. 見えない部分に脳が勝手に(無意識に)映像を書き込んでしまうらしい.
医者と下半分が見えない患者のインタビュー:
医師:「今も何か幻覚が見えていますか?たった今も?」
患者:「ええ.先生の膝の上にサルが居ます」
医師:「なぜ幻覚だと分かるのですか?」
患者:「きっとこんなところにサルなんか居ないだろうなと思って.あと,
幻覚は本物よりリアル過ぎるんです」
この人は,靴を履こうと思った瞬間床一面靴(の幻覚)だらけになって, どれが本物の靴か分からず苦労した,などということがあった.
脳に損傷を受けると,半側無視という症状になることがある. 女の人の化粧が,顔の半分側だけにしか成されていなくて,本人は そのことの異常さに気づかない.口紅も唇の半分だけ, 髪は半分とかして,半分はボッサボサ.これは自分の体の左側半分に まったく無関心になるという症例で,自分の好物の食べ物とかが 左側に置いてあっても,気づかず,右側に来ると突然「あら***があるのね うれしい」と言って食べだすそうだ.こういう人の中には, 自分の症状に自覚があり,自分が給仕された食べ物を全部食べるには, 一度全体を自分の右側に置かなきゃ食べれない,ということが分かっている人がいる. そういう人は,右回りに340度回転して,左側の食べ物を自分の右側に 持って来る.そのときも,*単に左を向けばよい*ということには 気づかない.
他にも,左腕が麻痺してまったく動かないくせに「動いている」と 嘘をつき続ける人の話など,不思議な例がたくさん. 自分の目の盲点に,自分の脳が勝手に「書き込み」を行う例の紹介と, その確かめ方なども載っている.
この本が本当にすごいと思うのは,哲学,自己や意識などという話と, 脳の科学的な仕組みの間を埋めてしまうからだ.意識が脳の中で どのように作られ,実現されているのか,完璧に解明されていない現状でも ある程度の概要を与えてくれる. フロイト的心理状態を,脳の仕組みを用いて解釈する.また, 「赤い」というのを本当に人に伝えること, 例えば盲人に伝えることはできないのではないかという哲学的問題に答えてくれる. 脳の仕組みを解明し,脳の該当部分に刺激を与えれば,その盲人の人は 「おお,これが赤いということか!」と言うはずである.事実に基づいた このような議論には,とても説得される.
沢山の推論のなかには,単なる神経学を超えた話も沢山出てくる. 微笑みは,犬が牙を剥く威嚇のポーズの変形ではないか,と論じ, 以下のように述べている部分が,俺は大好きだった.
人がほほえみかけるとき,実は犬歯をちらつかせてなかば威嚇しているのだ という事実に,私は大きな皮肉を感じる.ダーウィンは「人間の由来」の最後の 章で,私たちも類人猿のような祖先から進化してきたのではないかと故意に ほのめかした.イギリスの政治家ベンジャミン・ディズレーリはこれに激怒して, オックスフォードで開かれたある会合で「人間は野獣なのか.それとも天使なのか」 という名高い修辞的な疑問を投げかけた.答えは自分の妻がほほえみかけたとき 犬歯を見ればわかったはずだ.そうすればこの単純な,友好をあらわす 人類普遍のしぐさのなかに,私たちの野蛮な過去のぞっとするような名残に 気づいただろう.ダーウィン自身が「人間の由来」で結論しているとおりなのだ.
この後ダーウィン「人間の由来」から該当部分が引用される.興味がある 人は本を見てみてね.
writeback message: Ready to post a comment.